2011年度から使用される小学校社会科教科書について、産経新聞が奇妙な論陣を張っています。


 記事は『教科書 陛下“呼び捨て” 小6社会3社、皇室軽視強まる』。
 小学校教科書の天皇に関する記述について、「天皇」となっていて「天皇陛下」という表現ではないことや、巻末索引に「天皇」の項目がなかった教科書があることに難癖をつけ、「皇室軽視」があるとやり玉に挙げています。
 論拠として、小学校の新学習指導要領(6年社会科)に「天皇への理解と敬愛の念を深める」と記されていることを指摘しています。
 日本国憲法に基づいて天皇の立場を客観的に理解すること自体は、憲法学習という意味で必要でしょう。しかし「敬愛の念」は内心に属するものであり、「敬愛の念を深める」という記述自体が日本国憲法に抵触するものだといえます。「敬愛の念」ほか内心に属することについては、そう思いたい人が自主的に思えばよいことで、押しつけようとすること自体が矛盾です。
 しかも産経新聞では、「過去の小中高の教科書でも「仁徳天皇陵」の記載が括弧書きや「大仙陵古墳」「大山古墳」「仁徳陵」として検定をパス。」と、全然関係のないことを持ち出して「皇室軽視の傾向がずっと続いている」かのように印象づけようとしています。
 記事の主張は、歴史学や社会科教育・歴史教育の初歩すら大胆に無視するものです。
 近年の教科書で、一般には「仁徳天皇陵」として知られる大阪府堺市の古墳の名称が「大山古墳(もしくは大仙古墳)」の表記に変わっているのは、学問的な到達点を反映したもので、皇室に対する心情とは全く関係ありません。
 同古墳については、学術的な観点からは、被葬者は不明・仁徳天皇の墓とは断定できないという指摘がされるようになりました。そのため、古墳の命名原則に沿って周辺一帯の地名からとった「大山(大仙)古墳」とする表記が主となり、教科書にも記載されるようになりました。「大山古墳(伝仁徳天皇陵)」などと括弧書きにくくられる場合は、一般的に知られている名称との併記でわかりやすさを考慮したという以上の他意などありません。
(参考:大阪府立近つ飛鳥博物館・小学生のためのこふんなぜなに教室『保護者・先生方へ―「大仙古墳と仁徳陵古墳という名称」について』)
 教育問題・教科書問題について時々「難癖をつけること自体が自己目的化しているのではないか」とすら感じるレベルの失笑ものの記事を提供してくれる産経新聞ですが、今回もまたやってくれたのかという感じです。
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