2011年春から新しく使用される小学校教科書に、津波の問題を取り上げる教材が相次いで採用されているということです。

 光村図書出版の小学校5年生の国語教科書には、「稲むらの火」を元にして書き下ろした教材「百年後のふるさとを守る」(執筆:人と防災未来センター長・関西大学教授、河田恵昭氏)が取り上げられています。

 「稲むらの火」は、1854年に発生した安政南海地震の際、紀伊国広村(現在の和歌山県広川町)の浜口梧陵(1820-85)が村人に津波を知らせて救った故事を元にしています。小泉八雲がこの故事を元に「A Living God」として英語で物語を作り、さらに和歌山県の小学校教員だった中井常蔵氏(1907-94)が翻訳・再構成しました。戦前の国定教科書の教材として採用されたこともありました。

 「百年後のふるさとを守る」では、浜口梧陵が地震後私財をなげうって堤防を作った史実についても触れられているということです。

 また教育出版の小学校5年生の社会科教科書では、自然災害に関する単元として、岩手県大船渡市立綾里(りょうり)小学校の津波防災劇の取り組みが紹介されています。祖父が昭和三陸津波(1933年)に遭遇したという同校の校長(当時)は、祖父から聞いた体験談や津波に関する資料を基にして、三陸津波を題材にした演劇の脚本を2006年に書きました。同校ではこの創作劇を地域の歴史学習や防災学習の一環としているということです。教科書には劇を上映する児童たちの様子が紹介されているということです。
 折しも教科書が編集されて検定が済み学校現場で使用される直前に、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が発生してしまいました。調べてみると、岩手県沿岸部の被災地では偶然とはいえ、国語・社会科とも上記の教科書が採用予定になっている様子。

 また社会科の教科書で取り上げられた綾里小学校では、当時校内にいた児童や教職員は間一髪で避難したものの、校舎は津波で浸水したとのこと。

 津波被害は今回の東日本大震災だけに限らず、21世紀前半に発生する可能性があると指摘されている東海地震・東南海地震・南海地震でも被害が発生することが予想されています。被害を最小限に食い止めるためにはどうしていけばいいのか、学校の教科書の教材としても取り上げていく意義はあるといえるでしょう。

(参考)
◎64年ぶり教科書に復活 津波防災「稲むらの火」 和歌山県内の公立小(紀伊民報 2011/3/25)
◎防災の偉人教科書に 「稲むらの火」その後の物語(神戸新聞 2011/1/19)
◎東日本大震災:あきらめず防災伝えたい 元校長の創作劇(毎日新聞 2011/3/19)
◎気象庁サイト「稲むらの火
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