作家の大江健三郎氏の著作『沖縄ノート』で「沖縄戦で集団自決を命令したと虚偽の記述をされ名誉を傷つけられた」などとして元日本軍の戦隊長らが大江氏と発行元の岩波書店を訴えていた訴訟で、最高裁は4月21日付で原告側の上告を棄却しました。沖縄戦集団自決への日本軍への関与を認め名誉毀損の成立を否定した一・二審判決が確定しました。


 沖縄戦の「集団自決」では、日本軍として住民を集団自決(強制集団死)に追い込むような体制があり、これを指して強制と呼ぶことが学問研究上の定説となっています。また。個々の隊長が具体的に命令を下したかは別の問題であり、軍全体としての強制の有無を否定するような材料にはならないとされています。
 この訴訟は、大江氏や岩波書店に対する個別の言論・出版問題にはとどまりませんでした。
 原告側は訴訟について、「教科書の記述を変えさせる」ことも目的としていると明言していました。
 また文部科学省はこの訴訟の存在を口実として、2007年3月の教科書検定の際、高等学校地理歴史科(日本史)教科書で沖縄戦の集団自決に関する記述に検定意見をつけ、軍の強制を示す記述を全面的に削除・修正させました。その後世論の高まりを背景に、訂正申請によって一定の記述回復はなされたとはいえども、検定意見そのものは撤回されず、また記述も検定意見前の水準と比較すれば後退したままです。
 原告側の主張は学問的にはすでに否定されているものですが、裁判でも改めて否定されたことで、原告側の主張に沿って教科書に検定意見をつけた文部科学省の見解は修正されなければならないでしょう。
(参考)
◎沖縄ノート訴訟で大江さん勝訴 軍の関与認めた判決確定(共同通信 2011/4/21)
◎「軍関与」認める判決確定=大江さん沖縄ノート訴訟-元軍人の上告棄却・最高裁(時事通信 2011/4/21)
◎最高裁決定「強い励みに」=改訂にも意欲-大江さん(時事通信 2011/4/21)
◎沖縄戦集団自決・損賠訴訟:「沖縄ノート」訴訟、大江さんの勝訴が確定(毎日新聞 2011/4/21)
◎「沖縄ノート」訴訟 集団自決の軍関与を認めた判決確定(朝日新聞 2011/4/21)
◎沖縄集団自決訴訟 大江健三郎さん側の勝訴確定 最高裁(産経新聞 2011/4/21)
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