沖縄県八重山地区の教科書採択問題で、政府が竹富町を一方的に「違法」と断じて是正要求を求めていた件に関して、下村博文文部科学相は5月23日の記者会見で、「竹富町に対する違法確認訴訟はしない」と表明した。

 2015年度より教科書採択地区が竹富町と石垣市・与那国町に分離され、ねじれ状態が解消することがあげられた。下村大臣は採択地区分離については「遺憾」としたものの、法律上の手続きを踏まえており受け止めざるを得ないなどとした。

 2011年度以降の状態については竹富町を一方的に「違法」とする見解は全く変えていないものの、訴訟に時間がかかることや、違法確認訴訟によって年度途中に教科書が変わることになると子どもに影響を与えるなどと判断したという。

 この問題は、竹富町が一方的に「違法」と断罪されるべき問題ではない。2010年度の地区教科書採択審議会で、審議会会長(石垣市教育長)が強引な手法で委員を入れ替えるなどし、審議会では最低評価だった育鵬社版中学校社会科(公民的分野)教科書を強引に採択答申したことが発端となっている。

 石垣市・与那国町は答申通り育鵬社版を採択したが、竹富町は手続きを問題視し、地方教育行政法の規定に基づいて教育委員会の採択権限として、現場や審議会での評価が高かった東京書籍版を採択した。一方で同一採択地区では同一教科書を使うとする教科書無償措置法を根拠に、政府などが竹富町に「違法」と難癖をつけ、教科書の無償給付を拒否した上、町に是正要求をおこなった。竹富町が違法というのなら、石垣市・与那国町も違法になるはずであろう。

 そもそも違法ではないのだから、違法確認訴訟などしても嫌がらせにしかならない。断念は当然である。

 当面の懸念は解消したものの、これで終わりというわけではない。『沖縄タイムス』によると、以下のような声が紹介されている。
 「子どもと教科書を考える八重山地区住民の会」の村田栄正共同代表は「提訴見送りは大歓迎」と評価すると同時に、「6月には小学校の教科書採択がある。石垣と与那国の両教委が教育現場の意見を尊重するよう求めたい。教科書問題はまだ終わっていない」と気を引き締めた。

 県民間教育研究所の長堂登志子所長も「国の圧力をはね返した竹富町教委と県教委に敬意を表したい」としつつ、「竹富の分離によって、かえって石垣と与那国はやりたい放題になってしまわないか。全面的には喜べない」と複雑な心境を打ち明けた。

(『竹富町教科書終息へ 安堵の一方「これからが正念場」』沖縄タイムス・2014年5月24日)

 今回の提訴断念は喜ばしいことだが、今後の不穏な動きにも引き続き警戒しなければならない。

(参考)
◎国、竹富町を訴えず 教科書問題で文科相(東京新聞 2014/5/23)
◎竹富町教科書終息へ 安堵の一方「これからが正念場」(沖縄タイムス 2014/5/24)
◎国、竹富提訴を断念 八重山教科書、単独採択決定受け(琉球新報 2014/5/24)
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