大阪市立中学校の育鵬社教科書問題に関連して「市民の声」が大阪市に寄せられたということ。大阪市は2018年1月5日付で意見を受け付け、同年3月1日付で大阪市のウェブサイトに公表されている。

 意見は以下のようなものである。

市立中学校で使う教科書について

 大阪市立中学校にこどもを通わせていますが、歴史の授業で年度初めに配られた教科書(A社)以外の教科書(B社)が学校にあり、授業の度に生徒に配られ終わると回収されています。授業のほとんどが後者の教科書を使用しており、どちらの教科書で習っているのかわからないとこどもから聞きました。保護者にはそういった説明はされていないです。ひとりの教師の判断で、配布している教科書以外を使って授業するダブルスタンダードはおかしいと思います。必要というのであれば説明を生徒及び保護者にもするべきではないでしょうか。また、別に学校で買い揃えているのであれば、その購入代金の捻出について説明が欲しいです。そういう事が他でもあるかもしれないので一度市内の中学校の実態調査が必要ではないでしょうか。


http://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000426359.html

 大阪市では2015年8月の中学校教科書採択で、中学校社会科歴史的分野・公民的分野で、育鵬社教科書を採択した。教科書は2016年度より使用されている。

http://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/page/0000327824.html

 育鵬社教科書の採択については、一部の教育委員のごり押しがあったことが指摘されている。ある教育委員が育鵬社の親会社の産経新聞グループの幹部を歴任した経歴がある上、その教育委員は育鵬社教科書の母体となった日本教育再生機構の雑誌に寄稿していたことが指摘された。

 さらには、日本教育再生機構の支持者が会長を務める住宅販売会社「フジ住宅」で民族差別的な社内報を配布されるなどの「ヘイトハラスメント」訴訟に関連して、業務の一環で従業員を教科書展示会場に赴かせ、一市民を装って育鵬社教科書を支持する文面のアンケート用紙を大量に投函するなどの行動もあったことが指摘された。

 大阪市教育委員会は育鵬社教科書を採択した際、歴史・公民ともに、2番目に評価が高かった教科書(歴史=帝国書院、公民=日本文教出版)を、補助教材・副読本扱いで市費で購入するという附帯決議をおこなった。当時の大阪市長・橋下徹がその方針を承認して予算措置をおこなった。

 「市民の声」では教科書会社名は匿名となっているが、「歴史の授業で年度初めに配られた教科書(A社)」は育鵬社教科書であり、また「以外の教科書(B社)」は帝国書院の教科書ということになる。

 大阪市会教育こども委員会での質疑では、教科書が2つあることについて問われた大阪市教委の担当者は、育鵬社の教科書を教科書として使用することを徹底する・他社の教科書はあくまでも補助教材の扱いをするという趣旨の答弁をおこなっていた。

 その一方で、育鵬社の教科書は歴史認識や社会認識もデタラメや一方的な見解が多く、基礎知識としても使えないものとなっている。テストの点数や受験がすべてではないものの、高校受験や高校生以降の学習につなげることを見据えても、育鵬社教科書では不利益を被ることになる。

 保護者からの意見とする内容については、何らかの政治的な意図があるものかどうかなのは、とりあえず現時点では断定を避ける。

 しかし大阪市の一連のおかしな態度が、このような「市民の声」を呼び込んだということになる。さらにその声を口実にして、「実態調査」と称して教育現場への統制を強めることになるのではないかとも危惧するものである。
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