愛知県の公立中学校で、総合学習の時間に前川喜平・前文部科学省事務次官を外部講師として招いた授業を実施したことに対して、文部科学省が当該自治体の教育委員会に対して、授業の意図を細かく問いただす「問い合わせ」をおこなっていたことがわかった。

「問い合わせ」に至る経過



 NHKの報道によると、事件の経過は概略、以下のようになっているという。

 前川前次官による授業は2018年2月におこなわれ、不登校や夜間中学校などをテーマにしていたという。

 その授業に対して、文部科学省課長補佐から当該自治体(NHKでは伏せられていたが、共同通信の別ソースによると名古屋市)の教育委員会に対し、3月1日付で内容について細かく問いただすメールが届いた。

 メールでは、前川氏が天下り問題で辞任したことや、「出会い系バー」を使用していたなどとして、「道徳教育が行われる学校にこうした背景のある氏をどのような判断で授業を依頼したのか」などと、前川氏を授業に呼ぶこと自体が問題かのような調子で、15項目にわたって回答を求めたという。さらに、授業の様子の録音がある場合はその録音を提出するようにも求めた。

教育内容への不当介入の疑い



 前川氏は現職時代の行動や、辞任後の講演内容から、政府・安倍内閣にとっては意に沿わない人物扱いされているように見受けられ、政府筋からの中傷も流されている。

 しかし、意に沿わない個人の言動について、文科省が圧力をかけることは、許されないことだといえる。

 文部科学省は、教育に関する大綱的な基準や条件整備の支援などが主任務である。個別の教育問題の事例について見解を出すのは、明確な法令違反がある場合、子どもの生命や安全を守るための緊急時など、限定的な場合にとどまっている。

 今回のケースでは、法令違反も見当たらなければ、生命や安全に関わる緊急性も見当たらない。

 文部科学省が個別の授業内容に立ち入って詳細に調査を図るということなど、本来はありえないことである。

 学校教育への統制や、政府にとって意に沿わない人物や意見の排除が、ここまで乱暴に進んでいるということに、戦慄を感じる。

一連の教育をめぐる流れの延長線上にある



 また今回の事例は、前川氏一人をターゲットにして偶発的に起きたというわけではなく、教育問題をめぐる一連の流れの延長線上にあるとも感じる。

 例えば、安倍内閣になってから顕著に強まった傾向であるが、教科書検定の内容について、政府見解に沿った内容で記述することを求められる傾向が強まっていると指摘されている。

 またほかにも、大学の自治を縮小・形骸化させようとするような動きや、18歳選挙権に伴う生徒の政治活動を制限させようとする動きなど、学校教育に対する統制策動は、教育の各分野で強まっている。それらの動きとも無関係ではないだろう。

(参考)
◎文科省が授業内容などの提出要求 前川前次官の中学校での授業で(NHKニュース 2018/3/15)
◎前川前次官の授業内容の報告を要請(共同通信 2018/3/15)
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