佐賀県鳥栖市立中学校で2012年、当時1年の男子生徒から同級生から激しいいじめを受けてケガをし重度のPTSDを発症した問題。

 この事件について、発覚直後には事件を認めていた学校側が、訴訟になると態度を急変させたとする経過が、『毎日新聞』2018年8月16日(ウェブ版)『鳥栖・中1いじめ 謝罪の市 提訴で態度一変「知らない」』で紹介されている。

事件の経過



 同紙の報道によると、いじめ事件の概要はおおむね以下のようになっている様子。

 2012年4月に鳥栖市立中学校に入学した男子生徒は、入学直後より「殴られる」「蹴られる」「プロレス技をかけられる」「エアガンで撃たれる」「殺虫剤を顔面に吹きかけられる」「カッターナイフやのこぎりを突きつけられる」などのいじめ・暴力行為を繰り返し受けた。合計約100万円を恐喝されたともいう。

 いじめは2012年10月に発覚した。生徒はPTSDを発症し、登校できなくなった。加害者らは児童相談所への通告措置となった。

 鳥栖市教育委員会は2013年3月に記者会見を開き、これらのいじめ行為を認めて陳謝し、事件の調査結果については市議会報告や市の広報紙でも言及した。「犯罪に等しい」とまで言及していたという。

 被害者とその家族は2015年2月、「これから前を向いて生きるためには、残忍な暴力と、学校が対応を誤った事実を明らかにする必要がある」として、加害者8人と鳥栖市を相手取り、約1億2700万円の損害賠償を求める訴訟を佐賀地裁に提訴した。

 しかし提訴直後に市の態度が一変し、いじめを「知らない」などと主張するようになったという。

あまりにも卑劣極まりない



 市の主張はあまりにも卑劣であり、被害者に二次被害を与えるものとなっている。

 いじめが「なかった」というのなら、2013年当時の対応は何だったのかということになる。

 その矛盾を埋めるために市側は「(いじめ・暴行を加害生徒に認めさせようとする)母親らの要請が厳しく、学校や市教委はそれに従う形で対応せざるを得なかった」とした。これは、まるで被害者側が「クレーマー」「モンスターペアレント」かのように印象操作したうえで、激しい要求に屈してしまったかのようにとんでもない主張である。さらには、加害者側がいじめの事実関係を全く認めていないことも援用し、「事実関係は被告生徒らの認否や陳述書などで明らかになった点も多い」から認めない方向に転じたともしている。

 「モンスターペアレント」から恫喝されて、その場では脅されるような形で無理やり認めさせられたが、実際は違う。自分たちこそ被害者だ――加害者や学校・教育委員会がこのように主張するのは、いじめ事件では加害者側の定番の手口である。有名な事例でも、長野県丸子実業高校いじめ自殺事件岐阜県瑞浪市立中学校いじめ自殺事件福岡市立小学校「教師の児童いじめ」事件など、枚挙にいとまがない。

 鳥栖市のいじめ事件についても、市が対応を変えたことで、被害者を強く傷つけるものとなっている。PTSDを発症した被害者の症状にも悪影響を与えているのではないかとも指摘されている。

 少なくとも、2012~13年当時に市の調査で認定した部分については、全面的に認めて対応策をとるのが筋ではないか。いじめを認めないというのは、おかしいのではないか。
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