大阪市は、市立高校に通う高校生をアメリカ合衆国・サンフランシスコ市に派遣してホームステイなどを実施する「大阪市・サンフランシスコ市間高校生交流事業」を予定していた。しかし吉村洋文大阪市長が「従軍慰安婦像問題」を理由にサンフランシスコ市との姉妹都市解消を打ち出したことに伴って、2017年11月に同事業を取りやめることにしたと報じられている。

 事業のきっかけは、2016年8月の吉村洋文大阪市長のサンフランシスコ市訪問にさかのぼる。訪問の際、現地関係者から「サンフランシスコ市から大阪市に高校生親善大使を派遣しているが、それだけではなく、大阪市からの生徒をサンフランシスコ市で受け入れたい」という要望があがった。それを受けて「市立の高校に通っている高校生の代表を派遣する」と具体化した事業だった。

事業目的は、以下のようになっていた。

姉妹都市間の友好を一層深め、国際的な信頼と友好の促進に資することを目的として、大阪市立の高等学校生徒を姉妹都市であるサンフランシスコ市に派遣し、市民レベルでの交流を行う。
この派遣を通じて、派遣対象の高校生は国際交流の意義等を実地で体験するとともに、日ごろの英語等の学習の成果を実感し、帰国後は派遣の成果について報告書等により市立高校のほか、市立小・中学校の児童生徒に還元するとともに、情報発信等により市民に対しても広く周知する。

(大阪市・2017年度「予算事業一覧 事業概要説明資料」 http://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/cmsfiles/contents/0000390/390464/44.pdf)


 12月に代表候補者の選考をおこない、2018年3月に代表5人を約10日間の日程で派遣する予定だった。

 しかし2017年11月になり、吉村洋文大阪市長が、従軍慰安婦像の設置をめぐってサンフランシスコ市と大阪市との姉妹都市解消の方針を示した。このことで、あおりを受けた形になる。

 従軍慰安婦像の問題については、従軍慰安婦そのものについての見解には「個人の一方的な歴史観を持ち込んではいけない」「主張の中身はともかく、主張するなら外交ルートで筋を通すべきで、大阪市が筋違いの口出しをすれば混乱する」という立場の違いはあっても、1957年10月の姉妹都市提携以降60年間草の根で積み上げてきた都市の友好を壊してはならないという観点から、従軍慰安婦像問題を理由にした姉妹都市解消の話には否定的な見解が多くを占めている。しかし吉村市長が押し切ったことになる。

 吉村市長や、市政与党の大阪維新の会の別の場所での失策をごまかし挽回するために、従軍慰安婦像に目をつけたのではないかとも思われる。

 国政では2017年10月の総選挙で維新は大阪府以外では振るわなかった。維新が掲げている「大阪都構想」と称する大阪市の廃止解体案についても、財政効果に乏しいとする試算結果が出た。また大阪市政でも大阪市立住吉市民病院の「府市統合」での廃止問題をめぐる数々の混乱をはじめ、森友学園問題でも大阪市独自の補助金への不正問題や系列保育所での虐待疑惑に十分に対応できていなかった疑惑の問題、児童相談所増設計画に際して条件の悪い場所に固執したことで開設計画が遅れたことなど、維新政治による問題があちこちで顕在化した形になっている。

 それらの維新の数々の失策ごまかすために、従軍慰安婦像問題を持ち出してサンフランシスコ市をやり玉に挙げ、ネトウヨの支持を得ることで乗り切ろうとしたのではないかと推測される。

 しかしそのことで、都市間の国際交流にも支障が出て、高校生の派遣が中止になるという新たな弊害が出た形になった。これでは、大阪市としては大失態だし、派遣を希望していた高校生も傷つけることになる。

 時事通信では、以下のような声が紹介されている。

 学生派遣などの交流活動を続けてきた市民団体「SOYNET」会長の久保井亮一・大阪大名誉教授(71)は「姉妹都市交流の原点は、政治に巻き込まれない市民のための交流だ。解消は最悪の選択。市民の交流や子どもたちの未来を踏みにじるもので、本当に悲しい」と落胆。学生の受け入れ先となる米国側団体がなくなることも危惧している。

(時事通信2017年11月24日『姉妹都市解消に不安の声=高校生派遣を中止―大阪市』)




 この指摘は、全くその通りだと感じる。一人の市長やその市長が所属する政党の政治的パフォーマンスによって、都市間の関係を悪化させるというのは、あってはならない。こういった措置も、「大阪都構想」なるものによる大阪市の廃止解体をねらう布石なのか。
このエントリーをはてなブックマークに追加 編集